現地採用けもの道

存在を証明

内定後にすべき4つのアクション

 海外の現地法人の日本人の数は通常、駐在員および現地採用者含め数名である。日本人現地採用の入社はそう頻繁にあることではない。すなわち、現地法人の社長にとって貴方の採用が任期中の最初で最後の日本人現地採用になる可能性も少なくない。

 貴方の海外就職が初めてであるように、採用者である海外現地法人の社長も、初めて、あるいは数回目の不慣れな業務なのである。双方が不慣れで手探りの中、お互いが納得いく合意を目指すのが、日本人現地採用の入社プロセスである。まずはこれを念頭に置いてほしい。

 

<目次>

①待遇に満足しても他の企業を受け続ける

②現在の待遇を交渉する

③将来の待遇について口約束をしてもらう

④日本の人材エージェントに登録する

 

①待遇に満足しても他の企業を受け続ける

 まず現地採用としての内定が出た時、貴方は待遇について「許容はできるけれど理想的ではない」と感じたはずである。日本人現地採用というのは非常にニッチな市場である。もし貴方が未経験や新卒であるならば、多少の我慢は必要であろう。しかし、日本で培ってきた知見がある場合、それをどのように評価して、給与に反映させるかの相場はない。基本的に交渉の世界である。

 そして、交渉においては会社側が決定権を持つことに加え、情報も多く所持している。貴方が最初の求職者ではないであろうし、採用者は人材紹介会社を通じて様々な情報や知見を入手している。

 もちろん交渉は行うべきだが、交渉相手は1社だけではなく複数社持つのが交渉のセオリーである。複数社から内定を得て、同時に交渉することにより、「この会社に断られても別の会社がある」という気持ちの余裕が生まれる。また、複数の内定を比べることにより、相場より不当に低い価格で最初の給与が決まるリスクを避けることができる。

 海外就職とは文字通り、海外に就職するのである。国内での転職よりも圧倒的にかかる労力が大きい。そして、失敗したときのリカバリーが国内転職よりも手間である。したがって、複数社の内定を得ることは様々な保険となる。

 例えば、労働許可証を取得してもらえずに、労働許可証無しの労働(不法労働)を強いられるケースを実際に複数聞いたことがある。このような場合、内定したが断った先に改めて相談するのも手である。仕事を嫌になったわけではなく、先方が納得できる理由なら入社を歓迎される可能性は大いにある。

 

②現在の待遇を交渉する

 本命の内定後も上述のように就職活動を続け、本命の待遇を交渉することをお勧めする。もちろん嫌がれるであろうが、考えて欲しい。会社にとっての毎月5万円のコスト増は微々たるものであるが、従業員にとって毎年貯金が60万円(5✕12)増えることは大きなインパクトである。

 「入社後の活躍で給与を上げる」という甘言は要注意である。この台詞は面接でよく言われることであるが、実際に入社してみると、「昇給の上限は本社が設定している」と言われることが多々ある。そして、「本社が設定している最大限の昇給率で我慢してくれ」となるのである。

 58%の昇給率は日本でサラリーマンを続けていれば魅力的である。しかし、現地採用として待遇を1030%下げて海外就職した場合、この程度の昇給率では割に合わない。初めての海外就職として、慣れない文化の中で一生懸命仕事をするのである。最初から納得のいく給与水準でなければ、心が折れやすいであろう。

 また、社内規定など労働条件の詳細が明らかになるタイミングで、待遇アップを交渉してみるのはどうであろうか。例えば、「医療費補助がこの規定ですと、この国で外国人である自分にとっては少し厳しい」こういった口実でネゴシエーションしてみるのも手である。

 特に自分が最初の現地採用の日本人の場合、うまくいきやすい。会社から「そういったことを考えてなかった」と言ってもらえ、すんなり受け入れられるケースもある。自分の後にも続く現地採用の日本人を想定し、会社と一緒により良い会社の仕組みを作るという視点を持ちたい。

 残念ながら現実的に、海外での現地採用者は、入社した会社で定年まで勤めあげる可能性はほとんどない。東南アジアの寿命は日本より短いため、現地の雇用慣行や法定の定年が55歳程度であったりする。また、現地法人がその国から撤退することも珍しくない。

 最初に就職した現地法人で長く勤めながら、待遇やスキルを上げていければ素晴らしいと思う。しかしそれは、貴方の努力だけではどうにもならない環境によって妨げられることも多い。現実的に、現地採用日本人が長期間働くことを前提に懸命に努力をしたとしても、結果的に海外での現地採用はキャリアの1ステップとなるのである。だからこそ、「今の」待遇にしっかりこだわりたい。

 

③将来の待遇について口約束をしてもらう

 将来の給与アップの口約束は信頼に値しない。しかし、ぜひとも考慮いただきたいとして以下の内容を伝えてみてはどうであろうか。もし貴方が現地法人の社長の信頼を勝ち得ているのなら、社長は「多少のコミットメントをしてでも入社して欲しい」と考えるはずである。

 

 ・為替変動への考慮

 基本的に現地採用は現地の通貨で給与を受け取る。したがって、現地通貨の為替が下がれば円ベースで見たときの給与は下落する。親への仕送りや奨学金の返済がある場合、現地通貨の下落は痛手である。しかし、具体的にドルや円ベースで一定以上の金額を保証してもらうのは現実的に難しいであろう。

 「親への仕送りや奨学金の返済があるため、現地通貨が下落した場合には、昇給や賞与の査定において多少考慮いただくことはできますか」と、聞いてみるのはどうであろうか。具体的に数値として要求しているわけではないので、考慮しないとは答えにくいはずである。

 こういった言質を取っておくことで、将来の待遇交渉の際のカードの1つとして活用できる可能性がある。また昇給前にそれとなく通貨下落について言及することで、現地法人社長が貴方の昇給を4%か5%で悩んでいる際に、5%で決着する可能性が高まる。

 

・駐在員と同様の成果を出し始めたら、待遇に反映させて欲しい

  前述の為替変動への考慮と同様の理由である。現地採用と駐在員の給与差があることは大前提であるが、入社前~入社後において「懸命に仕事をするので、少しずつ駐在員との給与格差を縮めて欲しい」とアピールするのである。

 こういったアピールは、会社にとって雑用としての現地採用ではなく、戦力としての現地採用と見てもらうための布石にもなる。 

 

④日本の人材エージェントに登録する

 現地採用は入社前においても入社後においても、キャリアについて常に不安がつきまとう。契約上は終身雇用であっても、現地採用の日本人も、会社側も、実際は終身雇用として考えていない。現地採用の日本人は、自らのキャリアを主体的に考えなければならない。

 しかしながら、自身で考えてもあまり答えは見えてこない。それではどうするのか。転職市場の需要と供給を常にウォッチするのである。入社前に人材会社に登録して、求人をチェックする。さらに入社後も半年、1年、2年目など節目のタイミングで自分のキャリアがどのように評価されるのかチェックしたい。

 世間では一切推奨されない方法だが、あえて言いたい。海外現地法人の内定から入社準備におそらく1~2ヵ月かかるので、その準備期間に日本でさらに転職活動をすべきである。できれば駐在員待遇での海外赴任を探したい。そして、条件次第では、現地採用を蹴ってそちらに就職すべきである。

 もちろん既に内定承諾書にサインしているはずなので、これは契約破棄にあたる。しかし、実際に損害賠償で訴えられるようなケースはないであろう。親の介護が必要になったなど、先方が仕方ないと思える口実を用意して誠心誠意謝れば丸く収まるはずである。

 また、日本の転職市場で駐在員待遇での転職に失敗しても、今の自分の市場価値と駐在員待遇で転職できる人材のギャップが見える。今後のキャリアの1つの中間地点のゴールが見えるのである。

 あるいは、そこそこよい条件で日本での転職活動で内定が出たならば、内定をもらった海外法人に対してかなりハードルの高い条件変更を主張するのも手である。受け入れられれば、そのまま海外に行けばよいし、断られれば国内の会社に行くのである。

 大変自分勝手なことを推奨するように聞こえたかもしれない。しかし一度しかない自分の人生である。お行儀よく世間のモラルにしたがって、自らの不平や不満を抑え込む人生で満足であろうか。駐在員は、手厚い保証と移動のサポートを得て、海外に赴任するのである。それに対して、自らの人生を賭けて現地採用者は異国に飛ぶのである。

 

 したたかでなければ、日本人現地採用は生き残れない。勝負は入社後ではなく、入社前から始まっている。