鼻が折れると鼻血が出る

鈍器で顔を殴れば鼻は折れるし、誰かのために行動すれば社会は変わる。仕事も執筆も想いを込めて。

現地採用の5年で私が得た4つの経験

 楽しいことばかりであったかというと嘘になる。悔しい思いや、情けない思いもたくさんした。しかし、振り返ってみると学ぶことの多い5年間であったと思う。一般化できることもあれば、できないこともある。しかし、これから現地採用として勤務を始める貴方が、高い確率で今後経験することについて書きたいと思う。

 

<目次>

①マネージメントの一端を担う

②異文化のチームを率いる

③複数の価値観に接する

④社外での異なる年代・業種・役職との交流

 

①マネージメントの一端を担う

 日系企業の海外現地法人のマネージメントは日本人が担っている。日本企業の独自のカルチャー、日本人の独自の行動様式、日本人のマネージメント能力の低さなど複数の理由や問題があり、現地国籍のスタッフへの権限移譲が行われていない。

 これは多くの日系企業で課題として認識されている。能力ではなく日本人という国籍によって権限を持つ者が決まる組織で、働きたいと思う優秀な現地国籍のスタッフはいないであろう。また、駐在員のコストは非常に高く、できる限り現地スタッフで業務をまわしたいと日本本社は考えている。

 この問題は3040年前から言われ続けている。各地の商工会議所の文献を見ると「日本企業は日本人のみで意思決定をしたがる」という批判が記載されている。しかし残念ながら、近い未来にこの状況が劇的に改善されることはないであろう。

 逆に言えば、日本人であるという理由で年齢を問わずマネージメントに参画できるのが日系企業の海外現地法人である。会社の建前としては、人事の責任者に採用権限があったとしても、実際の採用にあたっては海外現地法人の日本人社長の意向が大きく働くなど、インフォーマルに日本人が影響力を持っている。

 ほとんどの場合、海外の現地法人にはあなたを含めて日本人は数名である。十数名、日本人がいる企業すら珍しい。よって、社長含めて同じ会社の日本人同士の距離は非常に近くなりやすい。日本人同士のみで毎日ランチに行くケースも多い。決して差別ではなく、母語や食事の嗜好が違うため、よほど特別な心掛けがない限りそうなるのが通常である。

 結果として、会社の建前上の権限とは別に、日本人同士で会社の抱える悩みや目標を共有し、相談し合うことになる。各自の業務範囲が明確に定められていない日本企業のカルチャーではなおさら、社長と距離の近い者が実質的に重要な立場で仕事をするようになる。

 ある意味では日本人というだけで、本来は自らの業務範囲でない問題への対処が求められるともいえる。しかし、裏を返せば会社の成果に対して責任のある立場で、常にマネージメント目線の仕事が求められる。

 それは気楽なことではない。責任には大きなストレスもともなう。たまには「駐在員のように高給でない自分になぜそこまで求められるのか」と思うこともある。しかし、成果を出すために仕事をし続けるというのは、自分の能力を培うために有意義である。また、社内でも一目置かれるようになる。

 若いうちに規模は小さいながらも会社のマネージメントの一端を担う経験ができるのは海外就職の大きな利点である。日本では、そのような機会を得るのは、40代または50代か、もしかしたら一生ない可能性も少なくない。

 

②異文化のチームを率いる

 前述のように、貴方が2030代で現地国籍のスタッフを含め、会社の中で若手であったとしても、チームの中ではリーダーとしての働きが期待されている。形式上は年上の現地国籍スタッフがチームのリーダとなっていても、社長からはチームをうまく導くこと、場合によっては年上であるリーダー職を指導するように指示されることも珍しくない。

 役職としてリーダーを任されることもあれば、事実上のリーダーとなる場合もある。どちらの場合でも、慣習の違う異国で異なる価値観を持つ人々と仕事をするのは、とてもチャレンジングな経験である。はっきり言えば、時にはストレスが大きくかかる経験である。しかし、海外で仕事をする醍醐味であり、日本で働いていれば得ることができない経験であり、貴重なスキルである。

 こういった経験や困難の克服を通じて、グローバル人材や海外人材になりたいといったふわっとした目標ではなく、海外で業務を遂行できる自信を身に着けることができる。これは、TOEICのように数値化できて客観的に示せるものではない。しかし、同じく海外でマネージメントを経験した人間からすれば、貴方がどの程度真剣に海外で業務をこなしてきたか見抜くことは難しくない。

 

③複数の価値観に接する。

 海外現地法人で接する価値観は、現地の国の価値観のみではない。社長含めて人の入れ替わりが激しく、数年間の間であってもマネージメントスタイルが23回変わる経験をすることも珍しくない。また、ほぼすべての国は日本よりも転職率が高いため、現地国籍のスタッフが目まぐるしく入れ替わっていく。

 人の入れ替わりを通じて、日本人および現地国籍スタッフの様々な価値観と接していくことになる。変化への対応に苦労することもあるが、新鮮な気持ちで仕事に接するチャンスとも言える。日本では大企業であっても、海外では1040名くらいの小所帯である。この規模の会社は、社長が変われば企業のスタイルも大きくかわる。

 特に海外の現地法人は、仕組みが未整備であり、良い意味でも悪い意味でもマネージメントをする人に依存する状況となっている。ただし、貴方もマネージメントの一端なのである。ほとんどの現地法人は、会社の問題や課題の責任の一部は自分にある、または自分の働きかけによって組織を良くできるという認識を持てる規模感である。

 私は勤務期間が5年であったが、3年が任期の現地法人社長と3人関わることができた。マネージメントスタイルは三者三様であり、目標も目標へのアプローチも異なっていた。将来自分がより高い職位でマネージメントを行うための良い参考になったと思っている。

 

④社外での異なる年代・業種・役職との交流

 プライベートでも様々な学びがあった。海外においては、同じ日本人であるという連帯意識がある。業種、年齢、役職が違っても、同じ日本人という共通項で距離が近くなる。例えば同じ大学の集まりということで、日本の大企業の役員を兼務する現地法人トップと20代の若手が飲み会の席を並べることもある。

 また、著名な起業家であっても、海外日本人というコニュニティーが狭いせいで、顔見知りあるいは飲み仲間に簡単になったりする。2~3まわり年上との食事が楽しいとは限らないが、学ぶこと、あるいは反面教師にすることは多数ある。

 特に学びを共有するコミュニティーに入ることをぜひ推奨したい。そこでは、成功した起業家であっても、年上の現地法人社長であっても同じ学ぶ仲間である。遠慮せずに積極的に自分の意見を述べて欲しい。そこから、お互いに世代を超えて学ぶものは多いと思う。

 

 もちろん、現地採用は良いことばかりではない。しかし、様々な貴重な経験をしてきたのもまた事実である。海外でどのような経験を積むかは、どのように目の前の出来事を捉え、どのように行動するか次第である。貴方の海外勤務経験が実りあるものになるよう、この記事が参考になればよいと思う。