鼻が折れると鼻血が出る

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山田長政から学ぶ失敗しないタイ就職(業務編)

 「王国への道ー山田長政ー」という本がある。17世紀に日本からタイに渡り、アユタヤ王朝のもとで活躍した日本人の話である。

 なんの後ろ盾もなく、異国で成り上がる山田長政の姿を現地採用の自分に重ね、毎年のように繰り返し読んでいる。

 今回の記事ではこの山田長政の本から、いくつかの文章を引用し、タイに就職後にタイ人との人間関係に失敗しないためのコツを解説したい。

 なお、この記事は下記の続編にあたる。

タイ就職が失敗となる3つのパターン(就職〜内定編) - 鼻が折れると鼻血が出る

失敗① タイの文化を尊重しない

 日本人はおかしい。どんな土地に行ってもその土地の食べもの、気風に慣れないな。日本にいた時と同じ食べものをほしがり、日本にいた時と同じに暮らそうとする。だから、この品物を悦んで買ってくれる。それが・・・・日本人の弱いところ

 これは中国人商人の山田長政への語りかけである。もちろん中国人も世界各地に中華街を作り、自らの文化を維持している。しかしながら、移住した先々で生活様式を変える柔軟性は日本人よりも遥かに高い。また、タイのように中国人とタイ人の混血が進み、中華系という概念すら曖昧になっている国も少なくない。

 さて、タイの現地採用にはあまり見ないが、一切タイ料理を食べないことを(自慢げに)吹聴する駐在員をたまに見かける。

 もちろん、どうしても辛いものが口に合わない、あるいはアレルギーがあるなど仕方ない場合もあるであろう。しかし、日本食のみを食べることをあたかもステイタスのように自慢する駐在員には驚きを禁じを得ない。

 経済力を自慢しているのか、日本食を誇りに思っているのか、あるいはタイ料理を馬鹿にしているのかは分からない。しかしながら、外国でビジネスをするにあたってその国の風土に合わせることができないのは、冒頭の文章のように単に弱みに他ならない。

 こういった態度は、タイという国家、タイの文化、そしてタイ人に対する軽視に繋がる。

 タイ人は人の気持ちに非常に敏感である。タイ社会は空気を敏感に読み合う文化であり、タイ人は他人の感情を読むことにかけては日本人よりも遥かに長けている。

 仮に日本人同士の内輪でしか、タイ人に関する否定的な本音を言わなかったとしても、タイ人には必ず伝わる。隠せているつもりであっても決して隠せてはいない。

 以前、台湾からタイへ異動になった同僚が、「ここだけの話、台湾人に比べるとタイ人は頭の回転があまりにも遅い」 そういった内容のことを日本人同士の飲み会で話していた。

 ある日、タイ人のマネージャーと二人で昼飯に行き、色々話した際、「あの人はタイ人を下に見てる。タイより台湾が好きなことが分かる」という趣旨の発言があった。その時、少しは驚いたが、「やはり伝わるのか」という気持ちのほうが大きかった。

 特に現地採用がタイ人から嫌われた場合、致命的である。表面的に取り繕うのではなく、敬意と感謝の気持ちをタイ国およびタイ人に持てば、このような失敗を避けることができる。

 苦手な外国料理であっても、ぜひ挑戦して欲しい。きっと、タイ人のあなたを見る目が少しだけ変わり、親近感を持ってもらえるであろう。

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失敗② 正しさを盾に主張を押し通す

 人と走る時ははじめより一番手となってはならぬ。(中略)
 そのわけは一番手を走る者はことさらにおのれの力を使わねばならないからだ。

 率先して社内体制や業務手続きを改革あるいは効率化する。または、会議において積極的に発言し、場の空気を作る。これはデキるビジネスパーソンの典型的なイメージであろう。しかし、タイにおいてはこの考えをいくらか修整する必要がある。

 全員が100%賛成する提案は、ビジネスにおいては稀である。客観的に会社として100%行うべきことであっても、「あなたが提案した」という理由で反感を持つ人がいるかもしれない。

 あなたが100%正しいと考える意見であっても、まずは提言する前に、周り(あるいはキーパーソン)の意見を探るべきである。

 仕事の優先度が日本人とタイ人では異なる。ほんの少し業務に手間をかければ(すなわち残業を少し増やせば)、顧客満足度が抜群に上がるとしても、仕事よりも家族との時間が何倍も大事であれば、それは歓迎される提案とはならない。もちろん、どちらの価値観が正しいという話ではない。

 タイを含む東南アジアは非常にウェットな社会である。ドライに効率を追い求める風土ではない。いったん、感情的にこじれてしまえば、修復が非常に難しい。

 誰もが賛成するような提言であっても、誰がそれを言うべきなのかを考えたい。もしかすると、あなたが素晴らしい提言をしても、マネージャーなど役職者のタイ人がメンツを潰されたと思うかもしれない。そういった場合、適切な役職者から提言をするように、あなたが裏で動いたほうが良い。

 また、抵抗が予想される改革案などは、慎重に打ち出し方を考えるべきである。あなた自身が改革を進めていけば、多くのそれに反対するタイ人があなたの前に立ちふさがる。場合によっては改革の旗振りをタイ人に任せ、あなたが強力に補佐する立場の方がうまくいくかもしれない。

 強く風のあたる先頭を走らない。これは東南アジアにおける一つの処世術である。

 私もたくさんの失敗を犯した。自分自身のアイデアが間違いなく正しく、そして社長も支持してくれているという自負を持って、毅然として意見をし、時には指示を出してきた。しかしタイ人の猛反発があり、潰されたことも数しれない。

 ここはタイの国であり、タイ人の助けなくして会社は維持できない。

 君の言っていることは正しいけれども、言い方が良くない。タイ人の感情をよく考えて欲しい。

 これを言われるたびに、社長の指示を受けて会社にとって正しいことを行っているのに、タイ人から非論理的な意見と感情的な批判を怒涛のように浴びせられる私の感情は?と思った。

 物事をなすには、集団の感情の流れをコントロールする必要がある。そのためには、時には率先して意見を言うことも必要だが、まずはまわりの意見を確認し、風向きを見つつ調整するほうがうまくいくとようやく今は理解した。

 ビジネスパーソンに求められることは結果を出すことである。すなわち自身がパフォーマンスを誇示するのでなく、組織が良い方向に動くことこそが成果である。そして結局は、そのほうが個人としても評価される。

 正論を振りかざす私の態度は失敗だったのである。

駐在員にしろ、現地採用にしろ、現地の文化や価値観を尊重したいという気持ちと、正しく意思決定するということの板挟みにあっている。

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失敗③ タイ人を軽視する

 笑うている者に毒がある。近よってくる者は刃をかくしている。温和しい者は施術を考えている。お前たち日本人はそうした王宮の者から見れば、まるで子供だ、とても太刀打ちはできぬ。

 主人公である山田長政は、アユタヤ王宮の役人、すなわちタイ人と接する際の注意をこのように受ける。

 タイ人はこわい。微笑みの国、従順なタイ人という側面は、あなたがタイ人にメリットのある行動を取り続けている間のみ表れる。

 ひとたび、タイ人が会社に反旗を翻せば、日系企業は大きな痛手を被る。タイの労働法は、日本以上に労働者保護の色が強い。そして、法的な争いはタイ語で行われ、それを裁くのはタイ人である。

 あるいは、税務署への密告という手段を用いられるかもしれない。税務署にどこを見られても一切弱みのない会社は存在しない。タイの税務署の権限は日本以上に強く、担当官の主観が幅をきかせている。

 そして、驚くべきことに密告により税務調査が行われ、追徴課税が発生した場合、密告者に追徴課税の一部が支払われる。これは、袖の下的な慣習ではなく、法で定められているインセンティブなのである。

 我々日本人あるいは日系企業は、タイという外国でビジネスをさせてもらっているのである。この態度を忘れると、ひどいしっぺ返しを食らう。

 例えばタイの労働法上は、日本からの出張者であっても労働ビザが必要なケースが多い。しかし労働ビザ(正確にはノンイミグラントビザおよび労働許可証)を取る手続きは煩雑であり、出張者は観光ビザでタイに入国して短期の仕事をしているのが、実態である。これは通常は問題とならないが、厳密には違法である。

 日本からの出張者がタイのオフィスあるいは工場にいるときに、狙いすましたかのように入国管理局の職員が立ち入ることがある。これは、タイ人社員による密告であると考えて間違いない。入国管理局の職員は多忙であり、自主的に企業を調査することはほとんどないからである。

 常に笑顔であっても刺すときは刺す。その刃は日本人が思う以上に鋭い。それがタイ人である。傲れば大きな失敗となる。気をつけて欲しい。

補足 タイという国のしたたかさ

 アユタヤでは戦さの折、日本人を使う。日本人は戦いぶりが巧みだと皆、知っている。

 この一節はタイという国の本質を表している。

 タイのかつての王都であったアユタヤは多国籍都市あるいは渡来人国家であった。アユタヤ王朝は多くの国との交易で栄え、町には十数の言語が飛び交ったという。

 アユタヤ王朝はビジネスにおいて外国人に権益を与え、活躍させたのみならず、優秀な外国人を役人として登用した。

 これは今のタイの経済状況とも似ている。タイには日系の主要自動車メーカーおよび部品メーカーがほぼすべて集結している。そして、タイでは日系自動車メーカーを中心に、年間200万台もの自動車が生産されている。経済大国でも人口大国でもない国で200万台もの自動車を生産しているのはタイのみである。自動車の生産台数の世界ランキングでいえば、11〜13番あたりである。

 生産しているのは、タイ企業ではない。しかし、政府は法人税を得て、タイ人は雇用を得ている。実利をしっかりと取っている。

  以前にも言及したが、「外国人を1人雇うためには、タイ人を4人雇う必要がある」というのは賢い制度である。

関連記事:日本人労働者数の上限 〜タイ現地法人を考察する①〜 - 鼻が折れると鼻血が出る

 言い方が悪いが、タイという国は外国人に権益を与えてハードに働かせ、自身はあまり働かずに経済的なメリットを得るという戦略の得意な国である。

 もちろん外国人に働かせる、すなわち外資企業がタイでビジネスをしたいと思う投資環境を作るのは容易ではない。世界中の多くの途上国が、外国企業の投資を誘致しようとしている。しかし成功している国は少ない。インフラ投資や法制度の整備など、様々な施策が必要であり、外資企業の誘致は一朝一夕には達成できない。

 この点、タイという国は必要な努力を怠らなかった。かつて東南アジアの優等生と呼ばれたのは、外資企業の投資を梃に高成長を続けたからである。

 タイの経済は外資企業頼みであるというのは一面の真実である。しかし、見方を変えれば、タイは外国人を働かせて利を取る能力が巧みなのである。それはアユタヤ王朝から続くタイの十八番である。

おわりに

 海外就職が初めてであるならば、まずは成功するのではなく失敗しないということを心がけてほしい。

 私自身、気負いすぎてたくさんの失敗をした。若かったこともあり、功を焦り、タイ人の感情への配慮を怠ることもしばしばあった。もし私の失敗談が少しでもあなたの役に立つと嬉しい限りである。

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(アユタヤで象に乗る私の両親)