感嘆した。優秀すぎる。
一見すると、タイ人男性の不動産スタッフが物件について説明し、タイ人女性(以下、nasiさん)がそれを日本語に通訳しているように見えるだろう。
しかし、実はnasiさんはほとんど男性の話したことを通訳していない。
少し回りくどくなるが、nasiさんの凄さを語るため、順を追って説明させて欲しい。
✎動画の概要について
今回取り上げるのは、BANGKOK MANAGEMENT SERVICE CO.,LTD が作成しているバンコクの物件紹介動画である。
この記事の趣旨とは異なるが、バンコクの物件事情について分かる良動画である。編集も上手であるし、ぜひ見ていただければと思う。
バンコクの住宅環境がいかに良いか分かる。そして何より、nasiさんがかわいい。BANGKOK MANAGEMENT SERVICE、ただものではない。
タイでコンドミニアムを作る建材が安く手に入るのは、100年以上前のタイ国王の先見の明によるものである。
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✎初期の動画を見てみる
まず、確認できるかぎりで一番古いBANGKOK MANAGEMENT SERVICEの物件紹介動画は2018年12月23日のものである。普通に良い動画である。
次に古いのは2019年1月11日の以下の動画である。
ここで異変がおきる。明らかにタイ人男性の説明の質が落ちるのだ。部屋に入り、このような説明が始まる。
「これは、テレビです。これは、エアコンです」
いや?見れば分かるよ?
nasiさんもこの段階では、「これは、テレビです。これは、エアコンです」とそのまま通訳している。
おそらく、初回の動画は日本人の代表者が台本を作っていたのではないか。そして、2回目からは、タイ人に任せたのであろう。
✎nasiさんの神活躍が始まる
こちらは、2019年2月1日の動画である。
タイ人男性が「これはソファーです」をとタイ語で言うが、nasiさんはそれを通訳していない。かわりに、そのソファーに座り、「柔らかくて肌触りが良いですね」と言うのである。
視聴者が知りたいのは、部屋の片隅にある物体がソファーであるかどうかではない。それがどんなソファーなのか、映像では分からない質感である。
その後も、nasiさんは通訳すべき情報を取捨選択し、時には会話の主導権を握って、タイ人男性が有意義な発言をするように促している。
例えば、「これは、勉強机です」とタイ人男性が言うと、その時点ではその発言をnasiさんは通訳しない。勉強机の上にある鏡について言及し、会話を展開させた上で、「デスクにもできて化粧台にもなる。便利ですね」とコメントするのである。
通訳の業務においては、正確に通訳すべき時と、情報を取捨選択すべき時がある。後者のスキルを持つタイ人通訳は稀である。
タイ人通訳が臨時に必要な場合、エージェントに手配してもらうのが通常である。この場合、エージェントへの支払いは、1日あたり1万バーツが相場である。
一方、実力があり名指しで依頼が入るフリーの通訳者もいる。1日2万バーツ程度で依頼を受けている。直接依頼のため、すべて個人が受け取ることができ、実入りは多い。
nasiさんの日本語力、機転、キャラクターを合わせて考えれば、2万バーツの通訳者に近い評価となるであろう。
✎nasiさんのスキルが上がり続ける
タイ人男性は非常に真面目な性格なのであろう。「ここはキッチンです」、「ここはトイレです」、「ここは寝室です」と毎回しっかりと発言する。
しかし、そのタイ語の発男は日本語に訳されることはない。こんな流れである。
タイ人男性:ここはキッチンです(タイ語)
↓
nasiさん:わーすごくかわいいですね!(日本語)
ほとんどの視聴者はタイ語が分からないので、通訳されないタイ語の発言は「無」と同義である。
部屋に入るとまずnasiさんが感想述べ、気になった点をタイ人男性に質問する。完全に主導権を握っている。さらに、動画の最後に物件の特徴を簡潔にまとめることもある。
しかし、でしゃばっている感じはしない。タイ語が分からない人からすれば、タイ人男性がプロで、nasiさんが感想を言う素人役に見えるかもしれない。
実際は全くの逆である。nasiさん、優秀すぎる。そして、かわいい。
東南アジアの真ん中に南北の線を引くと(シンガポールからラオスをイメージして欲しい)、北に行くほど美人が増える
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✎以前、通訳のピンチヒッターをした話
ようやく、ここで仕事論に入る。以前、通訳としてミーティングに駆り出されたことがある。そのことを話したい。
日本からの出張者が、タイの今後の人口動態について深く知りたいということで、タイ人の専門家に通訳をつけて、会う予定であった。しかし、通訳者が急遽どうしても来れなくなり、たまたま手が空いていた私がピンチヒッターで英語から日本語の通訳を担当することになった。
事前に配布資料を読む時間もあったし、人口動態については、わりと私も勉強をしている分野である。通訳自体は、素人のピンチヒッターとしては、しっかり話せていたと思う。
しかし、致命的な問題が発生していた。そのタイ人の専門家が、議題について全然詳しくなかったのだ。全然詳しくない専門家とはこれいかに。
資料にタイの今後の人口動態が、書かれていた。これ自体は、よくあるデータである。ポイントは、「ではその人口動態推移に基づき、社会はいかに変化するのか?その影響に対して企業はどう対応すべきなのか?」である。
日本人から出たこういった質問について、タイ人の専門家が回答できず、場が微妙な雰囲気になっていった。
私はこのまま、機械的に通訳を続け、黒子を貫いても良かった。しかし、このタイ人の専門家をアレンジしたのは私の上司だった。それに、日本からの出張者にしても、ここまま日本に帰ったら出張報告書が寂しいことになるであろう。
越権かもしれないが、介入することにした。面談時間も半分が過ぎ、このままだとさすがにマズいと思った。
「〇〇という日本企業はタイの少子高齢化社会の到来を見越し、〜〜のような取り組みをしています。タイの商業銀行は店舗数を減らしてネット取引を〜〜、この点どう思われますか?」
こういった質問をタイ人の専門家にぶつけて見たり、単に通訳するのではなく、「こちら私から少し付け加えますと、〜〜」など、自分からも積極的に情報を出した。
出過ぎた行為のようにも思う。それが正しかったのかは未だに判断がつかない。しかし、次の日に上司から「大変だったみたいだね。ありがとう」と言われた。後悔はしていない。
✎ジェネラリストの日本人が専門家を凌駕しがちなタイ
もう少し、一般化した事例を話したい。
私の知る限り、タイの日系コンサルティング企業では、タイ人の各分野の専門家が資料を作り、日本人マネージャーがチェックしている。
日本人マネージャーは、特に専門分野に限定されず、広い分野の資料をチェックする。それに対し、タイ人のリサーチャーは各々の専門領域を持っている。
そうすると、その領域に対してはタイ人リサーチャーの方が知見を集中させることになるので、より深く鋭い分析ができそうである。できそうであるが、残念ながらできない。
すべての会社とは言わないが、その分野に特化していないはずの日本人が、より深い分析になるよう、加筆している。
もちろん、タイ人の能力が劣っているとは言わない。日経企業は優秀なタイ人を採用する能力がない、あるいは育成が下手であるなど、問題は企業側にもある。
とにかく、背景がどうであれ、タイ人と顧客の間に立つ日本人は、仕事の質を担保することが求められる。平たく言えば、適当な仕事をタイ人がしたとしても、それを日本人が自身で作業し直したり、あるいはタイ人に差し戻す。質の低いサービスが顧客にいかないよう、防波堤にならなければならない。
それは自分の役割なのか?という気持ちと戦いながら、タイ人のミスの尻拭いをする毎日を送る日本人がいかに多いことか!
しかし、タイ人から受け取った仕事をそのまま顧客にパスすれば、顧客からのクレームは避けられない。宿命である。
✎おわりに
nasiさんの仕事ぶりを見て、自分の日々の仕事を思い出してしまった。
「これをちゃんとするのは、あなたの責任ですよ」と思いつつ、顧客に対してレベルの低い仕事は提供できないため、自分で細かい点までチェックして指示をしている。時には自分で作業をすることも。
「任せることが大事」
このセリフはかっこいい。言いたがる人も多い。しかし、じゃあこのセリフを実践して、かつ仕事の質を保てている会社が果たしてどれだけあろうか。
日系企業が求める仕事の質を保つのは日本人の役割となっている。タイ人にすべてを任せるのが理想かもしれないが、実際問題として、そのようなレベルに達している企業はほぼ存在しない。
そういう問題意識を持っていたため、nasiさんのフォロー能力の高さに感動してしまった。
✎おまけに
いつまで経っても毎回、タイ人男性のフィルムさんは、「ここがキッチンです」と丁寧に言い続けている。
最初は「いや、そんな説明いらないよ」と思っていた。ちょっぴり滑稽に思えて、笑ってしまった。
しかし、毎回毎回「ここがキッチンです」と聞き続けるうちに、意識が変わってきた。
「ここがキッチンです」とフィルムさんが言うと、
キタコレ\(^o^)/
と思うようになってしまった。何故か中毒性がある。もはや、このセリフが楽しみになっている自分がいる。
週末、BANGKOK MANAGEMENT SERVICEで部屋探しをしたくなってきた。生で「ここがキッチンです」というセリフが聞きたくてたまらない。BANGKOK MANAGEMENT SERVICE、ただものではない。
(このブログはBANGKOK MANAGEMENT SERVICEの提供でお送りしておりません)