鼻が折れると鼻血が出る

鈍器で顔を殴れば鼻は折れるし、誰かのために行動すれば社会は変わる。仕事も執筆も想いを込めて。

オアシスにて休憩のススメ

 

 現地採用の就活は砂漠でオアシスを目指すのと似ている。足取りは重いし、ゴールまでの距離も分からない。遠くに見えるオアシス(タイ生活)は、本当にオアシスかも分からない。もしかしたら、枯れ果てた泉かもしれない。

 とある友人(29歳)が、来月からタイで働く。彼の給与は9万バーツ。特別なスキルがあるわけでもないし、英語も「できる」って言うとちょっと詐欺かなってレベルだ。

 人材会社から、「5〜6万バーツの給与が妥当ですね」と彼は言われた。しかし、「相場以上に高い給与を提示する企業が不定期に現れるため、待ちの姿勢を崩さず待機」という戦略にて、見事にこの高給を勝ち取った。ドライバーもついており、保険も駐在員の水準である。ボーナスも4〜5ヶ月。

 けっこうすげぇ。やっぱり優秀な営業マンだったのであろう。自分を高く売ったのだから。

 20代、独身、男性、任期無し、良待遇である。タイでの生活はマジでオアシスでパラダイスであろう。

 僕は僕で、迷走もしたが、それなりに仕事もプライベートも満足する状態に落ち着いている。そして、今、目の前にオアシスが広がっている。

 乾いた人間関係の職場でそれなりにハードに仕事をしているため、彼女と過ごす時間は一時のオアシスに等しい。しかし、ちょっと、今、このオアシスには困っている。

 彼女がホテルの廊下で放尿してしまったのだ。

 「トイレ!」って言って下半身丸出しで部屋のドアを飛び出していき、追いついた時には用を足していた。

 彼女を連れ戻し、廊下を拭いた。彼女が用を足した跡は、まるで砂漠に広がる雄大なオアシスのようであった。

 僕の彼女は酔うと奇行が多いが、基本的には楽しく付き合っている。普段は非常に真面目で律儀なお嬢様なため、酔ったときの反動が大きいのであろうか。

 反動といえば、タイの夜遊びである。30〜40代で日本では真面目に過ごしてきた人が、タイの風俗で出合った女性に熱を上げてしまうことがある。

 何かが弾けたように、いや、何かではない。財布のヒモと下半身のリミッターが弾けてしまう。

 一人に嵌る人もいれば、タイ人女性に嵌る人もいる。後者は複数の女性(花)を渡り歩くため、バタフライ(蝶)と呼ばれる。

 一般的には破産へのカウントダウンの火蓋が落ちているのだが、退廃と破滅は蜜の味とでも言うべきか。まわりのアドバイスなぞ、どこ吹く風である。恋は盲目である。

 砂漠に半袖、水無しで旅するような無謀さだ。砂嵐のような激しさをもって、タイの夜の世界は、蝶たちの全財産を巻き上げて行く。

 しかし、まれに奇跡的にオアシスに辿り着く人もいる。

 素朴な子が夜の世界に不本意に辿り着き、あなたとたまたま出会うわけだ。そして、あなたはその子を夜の世界からすくい上げる。二人の甘い生活が始まる。最初の数ヶ月だけ。

 遠くに見えるオアシスへの憧れと、実際にオアシスに住む生活は大きく異なる。オアシスは一時の潤いを提供しても、長く過ごすには適さないかもしれない。

 ぼんやりと彼女のオアシスを処理しながら、そんなことを考えた。

 奇しくもここのホテル名はレトロオアシスHOTEL。案外オアシスは、遠くでなく身近にあるのかもしれない。

 タイへの移住も同様である。タイ生活の開始が、オアシスへの到達ではなく、実は今いる環境の方が恵まれている可能性もある。

 さて、オアシス(Oasis)の本来の意味は緑地である。さらに転じて休憩所という意味を持つ。砂漠を行くキャラバンにとってオアシスは憩いの場であるからだ。

 もし今の日本の仕事や生活が辛い場合、タイ生活はあなたの人生における一時的な休憩所になるかもしれない。

 レトロオアシスHOTELは、繁華街を擁するスクンビット22の入口に位置している。毎日、幾人かの男女が休憩(といってもしているコトは運動に近いが)に訪れる。彼にとって、一時の休憩になるか、タイの夜に堕ちるかは神のみぞ知ることだ。

 オアシスを転々とするキャラバンのように、今日もタイの夜は、蝶が新たな花を求めて舞っている。そして、両手に花で浮かれる蝶が、僕の彼女のオアシスに足を滑らせてしまった。

 申し訳ないという気持ちが99%ほど。残りの1%は、3Pなんてしやがってという気持ちである。

 最後に、ホテルの名誉を回復したい。

 「水漏れしてるね」と彼らは話していた。断じて、ホテルの責任ではない。レトロオアシスHOTELは、とても快適でそこそこ清潔なホテルだ。値段も1,000バーツちょっとのお手頃価格。ぜひ、バンコクへ滞在の際にはお泊りいただきたい。もちろん、休憩でも。